本当に面白い小説(その2):アルジャーノンに花束を(ダニエル・キイス)

algernon

世に小説は数あれど、その後に同じことをした作品が全て「あれのマネ」とか「模倣」とか「パクリ」とか言われる、本当にユニークなフロンティアスピリッツ溢れる作品は多くありません。ましてやその実験的手法が作品の内容と完全に組み合わさった作品となると、これの他にはアガサ・クリスティーの「そして誰もいなくなった」、コルタサルの「石蹴り遊び」、あとは一枚劣って筒井康隆の「残像に口紅を」あたりでしょうか。殆ど心当たりがありません。
あまりにも有名ですが、しかし死ぬまでに読む価値がある傑作のひとつ、「アルジャーノンに花束を」のご紹介です。

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「アルジャーノンに花束を」あらすじ

知的障害を持つ青年チャーリイは、かしこくなって、周りの友達と同じになりたいと願っていた。他人を疑うことを知らず、周囲に笑顔をふりまき、誰にでも親切であろうとする、大きな体に小さな子供の心を持った優しい性格の青年だった。

彼は叔父の知り合いが営むパン屋で働くかたわら、知的障害者専門の学習クラスに通っていた。ある日、クラスの担任である大学教授・アリスから、開発されたばかりの脳手術を受けるよう勧められる。先に動物実験で対象となったハツカネズミの「アルジャーノン」は、驚くべき記憶・思考力を発揮し、チャーリイと難関の迷路実験で対決し、彼に勝ってしまう。彼は手術を受けることを快諾し、この手術の人間に対する臨床試験の被験者第1号に選ばれたのだった。
引用 – Wikipedia

特筆すべき事柄として、この物語は全てチャーリイが記述する「経過報告」の形をとって描かれます。最初は文章としてまともな体を取らず、句読点の打ち方もおかしいチャーリイの報告書が、手術の結果が現れるにつれて別人の文章のようにすり変わっていくというアイデアが採用された瞬間に、この作品は歴史的な傑作となることを決定づけられました(「バイオハザード」のアレの元ネタです)。

知能が発達するにつれて、優しいと思っていた周囲の人間が本当は自分をどう扱っていたか、そして精神遅滞者の自分を受け持っていた女教師がいかに美しいかを知った彼は、軋みをあげる日々の中で発見した様々な事柄を記録していきます。
しかし知能が発達しても情緒までもが発達するわけではなく、さらにアルジャーノンに現れた異変を感じ取った彼は、自分に施された手術に対してある疑念を感じることになるのですが……。

感想・あとがき

紹介不要の有名作。未読なら一回トライする価値はあります。複雑な世界観や難解な用語はなくともこれほど独創的、かつ胸を締め付けるほど感動的なSF作品が書けるといういい見本です。長編としてこれが出版されたのが1966年ですけど、60~70年代の同時多発的に新しいものが噴出すこの感じはなんなんですかね。後世のためにもう少し残しといて欲しかったんですが。

翻訳の小尾芙佐さんはダニエル・キイスとも親交があったそうで、その思い出を文庫版の解説で振り返ってくれています。「そりゃ翻訳も苦労するよな」という作品ですが素晴らしい仕事をされています。
キイス本人も版によっては序文を書いているんですが、軽ーく重要部分のネタバレが含まれているので、本文読んだ後に読むほうが吉。

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